「高齢化時代のマンション住生活の課題」
(1)生涯居住ができるマンションづくりを
「若い時代はマンション、中高年になったら一戸建て」――10年ほど前までは、これが常識でした。最近は、この流れが変わってきました。子供たちが独立し、夫婦2人の暮らしに戻った中高年の人たちが、利便性が高く、文化・芸術が味わえる機会の多い都心部などのマンションに、移ってくるようになりました。雨戸の開け閉めや、庭の手入れがおっくうな年齢になると、住宅の管理が楽なマンションの良さを、改めて気がつく人が増えているからです。
現在のところ、高齢者が住民の多数を占めているマンションは、それほどではないでしょうが、今後、マンションでも急速に、高齢化が進むことは間違いありません。マンション居住者が、それぞれ老後の生活設計を立てるように、マンションの管理組合としても、マンションの将来を想定した対策を考える必要があります。
そのポイントは、やはり生涯居住が出来るマンションづくりです。
近年供給されたマンションは、マンションを永住の場と考える人が増えてきたこともあって、生涯居住を想定した仕様が多くなっています。しかし、筑後10年以上経っている建物の場合は、高齢者に配慮した設計はあまり行われておりません。このため管理組合で、段差を解消したり、共用玄関や廊下にスロープを設けるなど、バリアフリー化する工事を行うマンションも増えています。
(2)高齢者が暮らしやすいソフト面の取り組みを
高齢になると、足もとがあやしくなるだけでなく、目や耳の機能も低下します。マンション内で自宅の場所がわからず、「迷子」になることもあります。館内表示や照明が、視力の低下した人に対応しているかどうかを確かめ、改善することも必要です。
また、建物や設備といったハード面を整えることだけで、生涯居住ができるマンションになるわけではありません。そもそも築年数が経ったマンションでは、思うように改修工事ができないこともあります。ハード面だけでなく、ソフト面での取り組みも、管理組合として考えることが大切です。
高齢になると、自宅から出るのが面倒になり、それが体力や気力の減退、老化を一層進行させることになります。管理組合で相談をして、共用部分にちょっとした集いの空間を用意するだけでも、高齢者にとって暮らしやすいマンションになるはずです。
たとえば、集会室を開放的な雰囲気の談話室に改装したり、エントランス周辺に、花壇とお休み処を設けるといった工夫をすれば、高齢者だけでなく、居住者全員が利用できます。集いの場ができれば、居住者がお互いに理解しあう機会も増え、助け合いの機運も出てきます。
(3)独居老人などへの専有部分サービスに配慮した管理を
今後、高齢化が進む中で、特に問題になるのが、一人暮らしの高齢者が増えることです。マンションも、もちろん例外ではありません。しかもマンションの住戸は、一戸建て住宅や長屋に比べて閉鎖的ですから、室内で異変があっても、外からはわかりにくいものです。セキュリティーシステムの一環として、身体の不調などを、外部に知らせる仕組みを導入することも、管理組合の検討課題になるでしょう。
これまでの管理組合の活動は、もっぱら共用部分を対象にするもので、専有部分については、ノータッチというのが普通でした。管理組合の業務も同じです。特定の居住者にサービスが偏重しないように、マンションに配属されている管理人さんが、個々の居住者の依頼に対応することを禁止している会社もあります。しかし、室内の電球を交換することもつらい高齢の居住者が増えてくると、こうした従来の考え方や仕組みを見直す必要も出てきます。
マンションの生活は、なによりも専有部分、つまり住戸の内側を中心に営まれています。高齢者など、実際に困っている居住者のことを考慮したサービスの提供など、管理のあり方を考えることも、これからの管理組合の重要テーマの一つになるでしょう。そして、管理組合から業務を委託される管理会社にも、専有部分内で起きる諸問題へのサービス対応力を向上することが、強く求められるようになるはずです。
マンションには、大勢の人が暮らすという集合・集積のメリットがあります。このメリットを上手に生かすことで、マンションに住んでいて良かった、といえるようにすることが、管理組合のもっとも大切な役割だと思います。
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