これぞ究極の顧客満足“おもてなし”――「加賀屋」食中毒事件の顛末――
旅に出ると、いろんなアクシデントに見舞われる。最近の例では、ラオスの古都・ルアンパバーン(世界遺産都市。昔はルアンプラバンと呼んでいたが、現地の人に聞いたら、どちらでもいいらしい)から、カンボジア・アンコールワットのある古都・シェムリアップ(シェム=シャム、リアップ=帰れ。つまり、タイ人よ帰れ、の意)に降り立ったら、いくら待ってもバケージが届かない。それも、われら上智大学アンコールワット視察団一行26名全員。団長のアンコールワットのレジェンド・石澤良昭元学長(2017年7月27日、”アジアのノーベル賞“といわれる「マグサイサイ賞」を受賞。これまでにマザー・テレサ、ダライ・ラマらが受賞)さえ、「明日の講演資料が入っているのに、こんなことは初めて」という。
アンコールワット空港でのロスト・バケージ事件
ほどなくベトナム航空から連絡が入り、「荷物は全員乗せきれずに、後の便に乗せましたが、その便はハノイに送られてしまいました。シェムリアップ空港に到着するのは、2日後の夕方です」とのアナウンスに、一同愕然。「なんというヘマ」とあきれたのも束の間、それからがテンヤワンヤの大騒ぎ。あいにく、その日は、日曜日の夜、開いているショッピングモールはどこだ!閉店ぎりぎりに駆けつけ、明日から2日分の下着、Tシャツ、身の回り品を買いあさり、売り場は現地小金の用意もなく、長蛇の列で殺気立つ。仲間の女性が半分もいる。しかも現地は焼け付くような8月の炎熱で高温多湿、身体は汗臭い。下着数枚、下着・上着替えは何着も必要だし、化粧品、日焼け止めなど女性陣の苦労は、いかばかりか。それなのに、手荷物遅延の保証は一人、購入実費の上限40米ドルとわずかで、旅行保険手続きが面倒なので、請求もしなかった。今となっては良い想い出だ。
中欧では、ホテルでのトラブルが2件も
つい2ヵ月前の5月に、チェコのプラハに18年ぶりに入ったが、そこのホテルにはバスタブがなく、シャワーだけ。約束違反だと抗議したら、「満杯なので、翌日からにします」とのこと。結局、この弁済は、旅行会社が帰国してから1万円の詫び料ですまされた。ウイーンに入ったら、ホテルが郊外のうす汚い安宿だったので、これも抗議したら、翌日からの2日間は、市内の新築ホテルに移ることができた。その迷惑料は、夕食での飲み物のサービスだけ。
どこでも、いつでも、こうしたトラブルは避けがたいが、問題は、そのあとのトラブル処理の仕方であって、いかに“お客さま本位”のトラブル処理ができるかであろう。その仕方によっては、2次トラブルに発展・拡大するケースも多く、まさに日頃の真価が問われよう。そういった意味で、昨年の9月、究極の“おもてなし”ともいうべき、本当の意味での「お客さま・顧客第一主義」を味わった。
「加賀屋」では、旅行日程の全行程・全費用を弁済!!
場所は、能登半島の和倉温泉。旅館の名は、地元の「和倉」や「七尾市」よりも有名な「加賀屋」。“5つ星、おもてなしの宿認定3年連続”がうたい文句だ。なるほどパンフにある通りの、玄関で女将さん以下一列になって、お辞儀をしてのお出迎えをする徹底したサービスぶり。その加賀屋が、ご存知の人も多いかと思うが、昨年の9月3日、あろうことか「食中毒事件」を起こした。
前日の夜、食べた刺し身にバイ菌が付着して、15人のお客が翌日から胃腸炎を起こして、バッタバッタとダウン。なんと、わが家内がその犠牲者の一人となった。帰りの金沢からの新幹線に乗るやいなや、苦しみ始めた。ボクはアルコールのおかげだろうか、難を免れた。
食中毒事件はよくあることだが、問題は事件が起きてからのアフターサービスの”おもてなし“だ。その日、土曜日の夜からは翌朝にかけ、この事件がTVニュースで全国に流され、大騒ぎとなった。その2日後、「加賀屋」からは、「お一人さま2万円」のお詫びのご迷惑料を支払う、との連絡があり、「そんなもんか」と、わが老夫婦は思っていた。ところが、40代のわが娘は、「そんな金額では、お詫びにならないのでは」と、反応が違う。
それから3週間が過ぎ、また加賀屋から突然、「食中毒患者には、旅行の全行程(わが夫婦は9月1日の富山「越中八尾・おわら風の盆」見物からの2泊3日分)をお支払いします」との、思いもかけない回答。全行程の返金とは大したものだ、さすがは加賀屋と大満足していたら、すぐ、そのあと家内が、「連れの主人も、介抱したりして大変なご迷惑をかけたので、ご夫婦二人の全行程・全費用をお支払いします」――と。
この事件後のサービスの徹底ぶりには、さすがに驚いた。これほどのリカバリーショットがあっただろうか。加賀屋の徹底した看板通り以上の「お客さま第一主義」のおもてなしに、ほどほど感心した。二人の全行程・全費用は、締めて25万円。ボクは家内に、「また旅に出て、食当たりしてくれないか。全費用戻るんだから」と、悪ノリして言い出したら、家内に嫌われてしまった。
加賀屋のパンフレットより
掲載:会報「サロン・ド・ムッシュ」2017.7 夏号
|