“空き家”活用の「民泊ニュービジネス」が脚光
民泊ニュービジネスと不動産業界
今年の訪日外国人旅行者の数は、1,900万人が見込まれています。
政府の掲げる2,000万人目標が達成されようとしている中、ホテルや旅館に宿泊する代わりに、マンションや戸建て住宅の“空き部屋”に、安い価格で旅行客を泊める新たな「民泊ニュービジネス」が脚光を浴びています。増大する一方の空き家市場の「利用・活用促進ビジネス」として、「中古住宅市場の活性化」とからめた視点から見ても大いに注目されるところです。
民泊ビジネスのはしりは、世界中の旅行客を斡旋仲介サービスしている米国サンフランシスコのマッチングサイト『Airbnb(エアビーアンドビー)』です。2008年に創業し、世界190カ国、3万4,000以上の都市で150万件以上の物件が登録され、宿泊者数は累計5,000万人にのぼるといいます。
SNSでも「シェアリング・エコノミー(共有型経済)」の立役者と言われております。
『Airbnb』の日本国内での登録件数は1万6,000物件にものぼるとされ、急激に利用者が増えています。宿泊コストをできるだけ抑えたい外国人旅行客と、空き家を賃貸しして少しでも収入を得たいという住宅オーナーのニーズが、ピッタリ合致しているからでしょう。
ネガティブな面があるのも確か
このように急速に普及している民泊ビジネスですが、それだけにクレームやトラブルも出てきて、問題が多くなっているのも事実です。
窃盗、破損、居座り、金銭トラブル、部屋の又貸し、近所からの苦情などのマナー・ルール違反や、環境設備不良、安全性等に問題が多く、とくにマンションなどでは、大規模タワーマンションの共用施設として設置されている宿泊施設の「ゲストルーム」を連続して長期予約をし、貸し出して収入を得たり、所有者が旅行客にエントランスやエレベーターの暗証番号を教えて、自由に出入りできるようにさせるなどの管理規約違反の行為が目立っています。
また、設備面から見ても、旅館業法に抵触するケースが多いのが現状です。
旅館業法で決められている玄関帳簿(フロント)の設置や客室数、客室床面積の下限、換気設備や入浴設備などの細かい規制を守らないで、繰り返し旅行客を泊めていることは、明らかに違法行為なのです。
このようなトラブルが多発していることから、ニューヨークでは市と『Airbnb』が係争状態で、先日やっと和解にこぎつけたといういうニュースもあります。(参照)
またわが国でも、ブリリアマーレ有明のように「Airbnbなどの外部貸出、シェアハウスなどの利用の禁止」を明文化し、民泊によるトラブル防止に努めているマンションもあります。
その一方で『ブルームバーグ』の記事によると、シンガポールの若者の間では、『Airbnb』で見つけた近所の家に赴き、友人や恋人と楽しいひと時を過ごす、という使い方が流行っているようです。シンガポールにおいて大多数の独身男女は実家暮らしであり、プライベートな場所の確保が難しいからでしょう。
こんな風に、互いの利益を尊重しながら有意義に使えるのであれば、『Airbnb』の利用価値もあがるというものです。
ホストもゲストも安心して民泊ビジネスを利用できるよう、一刻も早い法整備が待たれますね。
合法的に民泊ビジネスを利用するには?
さて、前述の旅館業法に頼らないで、合法的に民泊ビジネスが手掛けられる“抜け道”があります。それは昨年施行された政府の「国家戦略特区」における地域を限っての規制を緩める特例を活用する手段です。なんとこの特例、特区に指定されている東京都内においては、一定の条件を満たす空き部屋を、都や区が認めた場合に限り旅館業法を適用しない、というのです。その一定の条件とは、①25㎡以上の部屋で、出入り口や窓にカギがかけられる、②台所、浴室、トイレ、冷暖房などの設備完備③外国語での施設案内が可能、などです。
大田区では、早速この特例を活用して、最低滞在期間7日以上などを条件に、民泊を承認する「条例案」を区議会に提出、年内に成立させ、来年1月から施行する方針でいます。また、大阪府も同様の「条例」の制定を目指しています。(参照)
さらに、マンション大手の大京では、トップシェアを誇る沖縄のマンションをメインとした空き部屋を長期リゾート滞在観光客向けに賃貸として貸し出す長期滞在型バケーション・レンタルサービス事業「旅家(たびいえ)」を、地元のコンドミニアム・リゾート事業の「株式会社かりゆし」と提携して、この夏から開始しています。
滞在期間は1カ月以上に限定し、旅館業法の「宿泊」でなく、借地借家法の「賃貸借契約」として、利用料金も割安に設定しています。
これも空き家ビジネスのユニークな新しい動きで、今後の成り行きが注目されることでしょう。
(平成27年11月掲載)
出典:『不動産×IT』研究所
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