BCP(事業継続計画)の現状と災害対応力の強化
この10数年、「記録的」とか「100年に一度の」とか「想定をはるかに超えた」と
いった大規模自然災害が、日本列島で相次いでいます。新型コロナ感染症のこの3年間にわたるパンデミックでは、日本全国、いや世界全体で経済活動がストップしてしまったばかりか、社会活動にも多大のダメージを与えました。こうしたことは、誰も予測できなかったということで、災害に対する備え、事前計画、事前対策の必要性が一段と高まっております。
「災害が発生した時に、あわてて考える」のと、「災害が発生した時に、計画した通りにほぼ実行する」とでは、雲泥の差があり、その被害度も大きく違ってくることでしょう。
(1)BCPの「策定に積極的」な企業は、 全体の25%程度
そこで、企業におけるBCP(事業継続計画)の現状は、どうなっていることでしょう。帝国データバンクの「BCPに対する企業の意識調査(2017~2022年)」(有効回答数:約1万社。うち大企業20%、中小企業80%)による「BCP策定」の現実は、最新の2022年が「策定済み」17.7%、「策定中」7.6%で、この両者を合わせた「策定に積極的」企業は、今もって25.3%程度と4分の1程度にとどまっています。
ちなみに調査開始時の5年前の2017年は、BCP「策定に積極的」な企業は21.6%あり、この5年間で、わずか4%しか増えていません。新型コロナが、3年間も続いていたにもかかわらずなのか、あるいは3年間も続いたので策定する時間がなかったせいなのか、いずれにしろ、BCP策定が足踏みしていることは確か。
逆に、BCPを「策定していない」企業が2022年時42.1%もあり、これに「不明」の8.0%を加えた「策定に消極的」企業は50.1%と、今もって過半数以上の多きに上っております。なお、「検討中」の企業は、24.6%という結果です。(図表1)
図表1
帝国データバンク:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2017~22年)
有効回答数:約1万社(大企業20%、中小企業80%)
一方、企業経営者(中小企業)の「リスクに対する意識」はどうなのかというと、「売上減少リスク」(41.8%)よりも、「自然災害リスク」(51.8%)の方をトップに上げ、最も高く意識していることが判明しました。これは、日本損害保険協会の「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査結果2022年報告書」(対象企業回答社数は1,031社)によるもので、自然災害のリスクが、いかに会社の存続を危うくするかという高い意識を、経営者が持っていることが容易に理解できます。
(2)BCP「未策定」企業のほとんどは、 「策定が難しい」と感じている
それなのに、どうして多くの企業が、BCP策定に消極的になっており、それに取り組もうとしていないのか―――。その原因を、前述の帝国データバンクの「BCPに対する企業の意識調査(2017~2022年)」(対象企業はBCP「未策定」会社約5,000社で、複数回答有り)で聞いてみたところ、2022年時調査では、ほとんどの企業が、「BCP策定は難しい」(112.3%)と感じている、と答えています。その内訳をみてみると、トップが「スキル・ノウハウ不足」(42.7%)で、次が「人材がいない」(31.1%)、「時間がない」(25.8%)、「費用がない」(12.7%)の順。調査開始の2017年時の結果とも、まったく同じ傾向でした。(図表2)
また、「BCP策定の必要性を感じない」と答えた企業が47.3%もいます。その内訳は、「書類のみで、実効性に疑問」と答えた企業が26.1%で、4分の1の企業が「実効性に疑問がある」と考えています。「策定の必要性を感じない」と答えた企業も21.2%いました。
図表2
帝国データバンク:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2017~22年)
BCP未策定約5000社対象(複数回答あり)
(3)BCPを策定して「少しは役に立った」 がトップの35%
そもそもBCPの策定は、災害などの非常時での行動計画の策定をすることだから、
BCPを策定しただけではダメなのは、言うまでもありません。平常時からの不断の訓練が大切で、非常時の「いざ、という時」に、素早く動けるように役立たせるようにするのが目的。そこで、BCPの策定が、実際に役立っているのかどうかを、内閣府の防災担当部署で調査した。調査項目は「2021年度、企業の事業継続及び防災の取り組みに関する実態調査」。
その結果は、BCP策定が「とても役に立った」と回答した企業は、わずか14.4%に過ぎなかった。「少しは役に立った」が最も多くて35.4%、それに比して、「役に立たなかった」の厳しい評価は1.5%に過ぎず、「役に立ったかどうかは不明」が28.0%。どうやら、BCPの策定は、少しは役に立っているというのが最大公約数といったところでしょうか。
こうした状況から、これからはより一層役に立つようなBCPの策定、なかんずくその運用の重要性が増してきています。これまでのとかく「計画倒れ」「マニュアル頼み」に陥ってしまいがちな災害対応力を一層強化・拡充させ、「計画倒れ」に終わらせない継続的かつ効率的な、しかも実効性の高い取り組みの必要性が高まっています。
(4)「いざと言う時」に、素早く動ける 「災害対応力の強化」を
こうした状況を受けて、災害時の「対応力強化」の支援事業に特化したサービス事業会社が、2023年の1月に設立され、動き出した。その会社は三井不動産が母体となって、同社の災害対応ノウハウと、フューチャー株式会社のITコンサルティング力とを掛け合わせた合弁の「アンドレジリエンス」株式会社。同社はまず手始めに今年の3月から、災害時の行動力強化におけるデジタル訓練サービスを新たに拡充して、企業のBCPの課題解決を目指そうとしています。
具体的には、①災害時の被害を事前に減らすための「脆弱性診断」による「事前対策」の洗い出しを見える化する、②発生時に素早く動ける態勢を作れるよう、実践的なシミュレーション訓練による「事後対応力」の「見える化訓練」をする、➂は、これら①の「脆弱性診断」と②の「見える化訓練」とを通じて、BCPにおける「課題」を明らかにして、「対策」を実施する、という流れ。「対策」を行うに当たっては、必要に応じて、BCPの策定見直しなどもしていくという。
なお、②の「見える化訓練」の中身は、(イ)災害発生時の行動力の可視化、(ロ)取り組みに対する必要性についての「気づき」(モチベーション)の形成、(ハ)経験値の
深化による行動力の強化—-―の3つを実現していくというもの。
また、同社が実施した訓練データに基づいた調査(参加企業・組織1,034社、参加人数3,200人)によると、災害発生後の行動を想定した「訓練を毎年繰り返して改善活動を行っている」企業は、企業規模にかかわらずに約半数にとどまっている、という。
さらに、同社のこの調査での「災害発生後の行動力」の独自評価での平均レベルは、「災害時に大混乱に陥り、人命の安全確保も十分な対応ができていない」状況にあるという。すなわち、BCP策定の有無、企業規模の大小にかかわらず、多くの企業は「いざという時に、素早く動ける能力がある」状態ではなさそうなのが、実態のようです。改めて、BCPの大きな課題が浮き彫りにされてきています。
(2023年7月掲載)
掲載:機関誌「マンション防災の眼」第10号 2023/6/30
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