◆オリンピックに向けて、健康・安全価値重視のまちづくり◆
東京オリンピック「選手村」は大会後、巨大マンション群の近未来環境先進都市のモデルに――
わが国初の「水素」を活用した新しいコミュニティ「HARUMI FLAG」
MALCA監事/経済ジャーナリスト
大越 武
2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会が、近づいてまいりました。そこで気になりますのが、五輪レガシー(遺産)の目玉の1つとなります東京・晴海の「選手村」です。
晴海は戦前の埋立て事業によって生まれ、長らく国際見本市会場となっていたエリアです。大会終了後、その晴海に作られる選手村が、近未来環境都市のモデルとなる新しい街「HARUMI FLAG(ハルミ・フラッグ)」(晴海5丁目西地区第1種市街地再開発事業)として生まれ変わります。施行区域18㌶という広大な敷地なだけに、その選手村が、どのように生まれ変わるのでしょうか。ポスト選手村のニュータウンづくりを追ってみました。
HARUMI FLAG完成予想CG
1.ニュータウン「HARUMI FLAG」として、新築マンション5632戸を供給、人口1万2000人の街に。 本年5月から販売を開始!
五輪選手村は、東京都の再開発事業です。都が道路や保育施設などの公共施設を、民間デベロッパー11社が住宅と商業施設の開発を担当します。住宅部分は、三井不動産レジデンシャルを幹事とする三菱地所レジデンス、住友不動産、住友商事、野村不動産、東急不動産、東京建物、NTT都市開発、新日鉄興和不動産、大和ハウス工業の10社で請け負い、商業施設部分は三井不動産が事業者となっています。
オリンピック大会中、この五輪選手村においては建築基準法の「仮使用」制度を活用することになっています。大会終了後には内部を改装して、新築マンション「HARUMI FLAG」として一般向けに順次、分譲・賃貸されていきます。民間デべ11社が担当する総開発面積は13㌶という広い敷地に、5632戸(分譲住宅4145戸、賃貸住宅1487戸)のマンション23棟と、商業施設1棟の合計24棟が建てられ、2024年度には人口1万2000人が住む新しい街ができあがります。このため、新天皇即位・新元号となる本年5月までには、マンションのモデルルームを一般公開して、販売を開始します。
2.駐車場はすべて地下にし、地上には大空間中庭空地を創出し、どこからでも海が見渡せる街に変貌!!
民間デべ11社の開発プランによると、「HARUMI FLAG」は近未来型の環境先進都市づくりを目指しています。そのプランのビジョンは、多彩なオープンスペースを創出する設計思想に基づいています。
具体的に言いますと、駐車場をすべて地下に持っていくことで、地上部は大空間中庭空地を生み出すというものです。各街区間の建物は、地下駐車場を介して接続しており、集荷やゴミの収集などは、すべて地下で完結させる。このため、地上で行き交うサービス事業者の交通量が格段に減少するのも、魅力的な街づくりの形成に一役買うのではなかろうか。
CENTER CORE 完成予想CG
また、敷地の周りの三方に広がっている海を、住民すべてが謳歌できるように、街のどこからでも海の風景を見渡せる環境づくりにする予定です。海そのものの眺めはもちろんのこと、行き交う船や飛び交う鳥など、飽きのこない景色や海の匂い、潮風の吹き抜ける気持ちよさなど、海を五感で楽しめるようにする。さらに、海の景色ばかりでなく、空の空地率も50%以上という大空間を確保しているという。
これには、25人もの一流デザイナーが指針とした「個性と統一感のある環境デザイン・ガイドライン」を具現化した結果と言えるでしょう。
緑道公園と4街区の海からの風景完成予想CG
3.マンションは1009通りもの多彩な間取りを用意!。 シェアハウスやシニア住宅、介護住宅も
分譲マンションにおいては、1009通りの多彩な間取りバリエーションを用意し、独身・夫婦・子育て世代・シニア世代など多種多様なライフステージやライフスタイルに対応できるようにしてあります。
5街区:SPORTS BAR 完成予想CG
共用室も51室もつくられ、多彩な多世代のライフスタイルに対応した部屋を用意してある。賃貸住宅においても、1K・1LDKのコンパクトな間取りはもちろんのこと、広々とした3LDKまで用意され、そのバリエーションは多岐に及びます。
さらに、若年層のライフスタイルを意識した「シェアハウス」も、単身用の個室型から4~5人で暮らせるユニット型のものまで多彩なプランが設計され、共同利用できる大きなリビングラウンジやキッチンスペースなど、吹き抜けのある開放的なコミュニティを育てる共用部を設けられています。
また、「シニア住宅」にいたっては、24時間常駐のスタッフと見守り設備を完備させて、安心・安全な暮らしを提供しているほか、「介護住宅」も用意されているという手厚さなのです。
4.街区をまたいだエリアネットワークで、 セキュリティーなど3つのサービスインフラを提供
それでは、街区や周辺のインフラは、どのようなプランになっているのでしょうか。
「HARUMI FLAG」においては、巨大な街の通信サービス基盤となるエリアネットワークが、街区をまたいで形成されます。データセンターと各街区が、専用の光ケーブル網を通じて、ひとつながりに接続し、次の3つのサービスインフラを提供するというのです。
①「タウンポータル」(町のイベントやエネルギーの状況、災害時のお知らせなど、街のあらゆる情報が掲載されるポータルサイトを開設し、住民向けの情報発信を行う。)
②「エネルギーマネジメント」(地域のエネルギー状況をAEMS(エリア・エネルギー・マネジメントシステム)で取りまとめ配信し、居住者の取り組みと省エネの成果を共有する。と同時に、データをもとに将来の需要も想定しながら、効率的なエネルギー管理を行っていく。)
③「セキュリティー」(個別の街区だけでなく、街区をまたいだ街区全体を監視する約750台の監視カメラ(商業施設のカメラ台数は除いた)の通信データをセキュリティーの中枢施設「セキュリティーセンター」において、一元管理する。セキュリティーセンターには24時間365日、警備員が常駐し、街区内の巡回、各街区の「防災センター」や管理人室からの情報収集、防犯カメラ映像の監視、災害発生時の対策拠点として機能する。また、各住戸の防犯・火災・非常警報に対応し、現場へ急行する「機械警備隊」も待機する。)
このほか、デジタルサイネージを使った情報発信、共用部や敷地内各所における居住者向けのフリーWi-Fiの展開、災害時にも率先して情報通信が実現されるという。
5.カーシェアリング、シェアサイクルで、 日常の移動手段をみんなでシェア!
さらに、日常の移動手段を、住民でシェアすることもできるのが、大きな特徴です。
1つ目は、各街区に複数台用意されたカーシェアリングサービスです。完全無人運用で利用することができる「EV」(電気自動車)や「水素カー」が出現します。
2つ目はシェアサイクルです。24時間利用できる居住者専用のレンタルサイクルシステムを導入、各棟の駐輪場に数種類の電動自転車が用意されています。
3つ目はコミュニティサイクルへの対応です。選手村がある中央区では現在、区境を越えたアシスト付き自転車のコミュニティサイクルの実証実験(ドコモバイクシェア)を行っており、居住者の身近な足として、通勤・通学・買い物等で活用できるコミュニティサイクル用のポートを、すべての建物の前に約300台分を設置する予定です。
6.「水素ステーション」を設置して、 CO2を一切排出しない「水素社会の実現」へ
近未来型の環境先進都市実現の極め付きは、この街でCO2を一切排出せず、排出されるのはH2Oの水だけという水素社会の実現を目指していることです。
これは東京都がエネルギー事業の取り組みとして挑んでいるもので、敷地の一角に「水素ステーション」を設置して、水素パイプライン、準水素型燃料電池(PEFC)を整備し、燃料電池車(FCV)FCバスなどの車両への水素供給や、水素パイプラインを通じて街区への水素供給が2つとも実現されます。ここに、近未来都市の「水素社会のモデル」を目指した街づくりが実現化、居住者はいち早くそれを体験できるのです。
昨年の2月に、東京ガスを代表企業とするエネルギー関連6社(東京ガス、JXTGエネルギー、東芝、東芝エネルギーシステムズ、パナソニック、晴海エコエネルギー)が、東京都によって選定され、事業が推進されています。「HARUMI FLAG」では、都市ガスから取り出した水素を利用して、電気とお湯を作り出す家庭用燃料電池「エネファーム」を全住戸に採用する予定です。このエネファームと蓄電池の両方を全住戸に設置するのは、日本では初めてのことです。
7.課題は交通アクセス
交通アクセスとして、「HARUMI FLAG」の鉄道の最寄り駅は、都営地下鉄・大江戸線の勝どき駅で、駅から徒歩20分はかかるため、立地がいいとはとても言えません。 これが大きな課題で、このため、東京都では東京の新たな大動脈「環状2号線」を開通させ、その上に「BRT」(バス高速輸送システム)の新交通システムを走らせて、都心と湾岸エリアをつなぐ予定です。
「HARUMI FLAG」はその結節点となっているからで、湾岸エリアの「有明エリア」(スポーツ・MICE施設)から、グルメ・レジャー文化の「豊洲エリア」を通って、都心とを直線的に結び付け、「新橋エリア」(ターミナル拠点)、さらにはビジネス街の「虎ノ門エリア」、「霞が関・官庁街」へとつながり、新たな東京の中心軸が形成されていくでしょう。
都市施設のインフラとしては、前述した「水素ステーション」のほか、「マルチモビリティ・ステーション」(BRTの発着場)、「晴海客船ターミナル」、「臨港消防署の新庁舎」、「小中学校の新設」などで、公園は広大な「晴海ふ頭公園」と「晴海緑道公園」の2つが予定されています。街区の中にも多くの公園スペースやイベント広場など、各種のオープンスペースが用意されており、緑の樹木も3900本と美しい森の風景を楽しめる工夫がなされています。
以上のような全体計画をもってつくられていく「HARUMI FLAG」は、近未来の最先端都市生活のフラッグシップになるような街づくりのモデルとなることを目指しています。
8.目下の関心は、相場よりも安い(?)販売価格動向
目下の関心は、この5月から売り出されるこの選手村マンションの販売価格が、いくらになるのかということで、その売れ行き動向が注目されています。都が、民間デべ11社の事業者に譲渡した土地価格は130億円と、かなりの割安であったことから、売り出し価格は、周辺の湾岸エリアの価格水準をかなり下回ることが予想されています。加えて、ここは戦前からの埋立地でもあり、地盤も比較的安定していると思われるので、筆者もおカネさえあれば、申し込みたいところ。そして、近未来の素敵なマンションライフを味わってみたいという欲求にも、誘惑されています。
なお、この「HARUMI FLAG」では、街づくりにおける国際的な環境認証制度である①「LEED」(リード)の街づくり部門「ND(近隣開発)」での計画認証と、②ランドスケープの持続可能性を主に評価する「SITES」の予備認証の2つを、世界で初めて同時に取得しております。
掲載:機関誌「MALCAの眼」第5号 2019/4/1
|