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都市近郊の農地「生産緑地」の税額がこんなにも安いとは!

新型コロナ禍が長引く中、テレワークとやらで自宅に閉じこもっているのも、身体によくない。ぶらり、散歩に出かけるのが日課となった。医師からも厳命されており、散歩がいきおい仕事となってしまった。

現役時代は、都心部と都下との2地域居住で、周囲の環境には目もくれず、しのいできた。渋谷の駅近マンションを売却し、都市郊外のベッドタウンに住み慣れてしまうと、それはそれで愛着が出てきて、散歩にも弾みがついてくる。

そこでやたらと目についてくるのは、市街地周辺にポツン、ポツンと孤立している農地。土と野菜の匂いがプーンとして良いのだが、家のすぐ後ろにある大きな農地には、冬から春にかけてのシーズンになると、「土ぼこり」が舞い上がり、窓やベランダに容易に侵入してきて困る。時にはモンゴル黄砂と混じって来る。それも多摩モノレールの駅前・駅下の一等地に今もって、デンと広く居座っている。街づくりの経済合理性から考えてみても、まったく不均衡な街の景観形成となっている。

多摩モノレール駅の直下に広がる「生産緑地」農地

こうして毎日散歩していると、最近は都市農地・都市農業問題に、やたらと興味を持ってきた。これまではバブル期の土地狂乱を経て長年、土地住宅問題をテーマにしてきたが、都市・住宅・不動産・街づくり面からの切り口でしか目を向けてこなかったので、反省の念もある。

後継不足で「生産緑地」が年々減少

折しも、そのきっかけとなったのは、地元の市の都市計画審議会の委員に長らく任命されていて、このところの審議会の諮問議題に、「生産緑地地区の変更」が目立って増えてきたからだ。その内容も、市内のあちこちに孤立して散らばっている「生産緑地地区」(300㎡以上の農地で、一般畑が大部分)の「指定解除」ばかりが審議され、「追加指定」は、1件もあるかないか。毎回、会議では20件前後の「生産緑地」が指定解除され、その減少面積も合計すると、かなりの広さになる。

指定解除の申請理由は、第一に農地所有者の死亡による後継不足、次いで公共施設への買い上げ転用など。それだけ都市郊外における農業の直面している大きな問題は、高齢化が著しい農家耕作者の後継・担い手不足などで、生産緑地の機能を維持していくことが困難となっているからであろう。

こうした都市の生産緑地の長期減少傾向に対応して、国は、市街化区域内における新鮮な農産物の地産地消、災害時の避難場所、グリーン保全などの観点から、少しでも都市農地を温存していく方針を決めた。具体的には、期限切れとなる現行の生産緑地制度の法改正をして衣替えし、新しく2022年度から「特定生産緑地制度」を創設することを決定、すでに2020年度から、その申請手続きの受付を開始している。

これが今、耕作している都市農家にとっても、所有する「生産緑地」について、「特定生産緑地」に指定申請するか、しないかをめぐって、大きく揺さぶられている。農業後継者がいない高齢者農家などでは、「自身で営農を継続することが難しい」と考えている方もあろうし、「いっそ他の農業従事者に、特定生産緑地として貸してしまおうか」と迷っている農家もいることだろう。

「生産緑地地区」の看板が立つ都市郊外の狭小農地

いずれにしろ、この「特定生産緑地」に指定されるメリットは、あまりにも大きい。この指定を受けると、引き続き現行の「生産緑地制度」と同様の「固定資産税」(都市計画税も含む)と、「相続税の納税猶予」という破格の税優遇が10年間、受けられる。

逆に、「特定生産緑地」の指定を受けない農地は、固定資産税が「宅地並み課税」となり、現行の300倍もの驚くべき重課税が課されてしまう。もちろん、相続税の納税猶予も現所有者のみで、次代の所有者には、適用されない。

「特定生産緑地」でも「1㎡あたり1.7円」の
固定資産税優遇を継続

なぜ、現行の「生産緑地」と2022年度からの「特定生産緑地」の固定資産税が、宅地と比べこれほど安いのか、と驚いて調べたのが、【図表】にある通り。 これを見ると一目瞭然。いかに農地にかかる税金が安いか、いかに優遇税制となっているかがわかろうというもの。

3大都市圏における市街化区域内にある農地(いわゆる「都市農地」と呼ばれているもの)に、「生産緑地」の指定を受けた農地の固定資産税は現在、「1㎡あたり1.7円」と安い。1ヘクタールの農地で、わずか年間1万7,000円で済む。これが「特定生産緑地」となっても、同額の優遇を受けられるメリットがある。いわゆる「農地並み課税」が適用される。「特定生産緑地」に指定しなかったら、5年間で段階的に「宅地並み課税」となり、5年後には「1㎡あたり537円」と、300倍にも膨れ上がり、「1ヘクタールの農地なら500万円強」の課税となる。

これに比べ、農地転用を行った場合の「宅地」で、住宅1戸あたり200㎡以上の宅地なら「1㎡あたり537円」、それ以下の狭小宅地なら「1㎡あたり308円」、住宅用地以外の店舗や駐車場の宅地なら、「1㎡あたり1,140円」と大幅にアップされる。

このように都市農業が、「生産緑地」⇒「特定生産緑地」制度によって、引き続き優遇されていっても、都市農地の長期減少に歯止めがかかっていくかとなると、温存期間が少しは長くなろうが長期的にみて、はなはだ疑問だ。高齢化が著しい農業従事者、担うべき後継不足、周囲の建物の中で孤立・散逸している農地では、いくら緑を残せと言っても、拡大ビジネスが図れず、都市農業ビジネスの展望が開けてこない。せいぜい現状維持が続けばよい方だろう。

その一方で、冒頭に書いた通りの多摩モノレールの駅前・駅下に見られるような都市郊外の農地が、駅前1等地にデンと居座っている無秩序な都市計画の惨状に対して、強力な追い出し重課税をかけるなどの経済合理性を優先させる有効な手が打たれてしかるべきだが、これも実現させるには、「100年河清を待つ」に等しいか―――。

(2021.2掲載)

掲載:会報「サロン・ド・ムッシュ」2021.1月、新春号

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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